Fenrir INSIGHT

ビジョンを示すために
経営者として、仕事、人に向き合う

2018.5.31

企業のトップは、日々どのようなことを考え、自分の仕事と向き合っているのかー。

国産ウェブブラウザ「Sleipnir」 (スレイプニール)をはじめ、これまでに300社500本以上のアプリ・ウェブの共同開発を手がけているフェンリル。現在は3つの支社と3つの子会社を設立し、グループ企業合わせて社員300名を超えるまでになった。

ここまでの成長の裏には、どのようなストーリーがあったのか。
同社の CEO である牧野が、自身の仕事、スタッフとの向き合い方について語った。

「できないことはない」という自信

フェンリルを立ち上げる前はサラリーマンをされていたんですよね

外資系のウェブ広告会社で営業をしていました。入社後間もなく新規事業の部署に配属されたので、営業だけをしていたというわけではないですが。

というのも、新規事業部門は新しい部署だったので営業は私一人しかいなくて、まだ売るものもないので何をつくるのかを決めるという段階から考えなければならなかったんです。その頃は1週間のうち3日くらいは会社に泊まって仕事をしていてけっこう大変でしたが、営業だけではなくひと通り経験したことが今の自分の糧になったと思います。

その当時に経験されたことで印象に残っていることはありますか?

当時、日本市場をほぼ独占していた広告配信サーバーがあって、同業他社がその分野に参入してはうまく行かず撤退するという時期があったんです。そのうちの1つとして当時の会社も参入していましたが、なかなか顧客を獲得できず苦戦していました。

やっとの思いで1社の契約を取れましたが、その後しばらくは売ることができず自信を失いかけていました。すると当時の上司から、「1社でも買ってくれるところがあるということは可能性はゼロではない。がんばれば2社目、3社目と結果がついてくるはず。」と言われたんです。確かにそうだなと思って、霧が晴れたような気持ちになったことは今でも思い出しますね。

私は人見知りですし気の利いたことも言えないので、いわゆる営業マンという感じではなかったんですけど、そんな私でもやれているのだから、「できないことはないにもない」という自信にもつながりました。

起業にあたって、はじめからビジョンがあったのでしょうか

けっこう早い段階から、チャンスがあれば起業したいと思っていましたが、どんな会社にするかはまだ決めていなかったですね。

既存の商品を売る代理販売は会社に勤めて営業しているのと大して変わらないですし、かと言って全く新しい商品をつくって売るのもリスクがある。それで、既にある程度のユーザーを獲得しているサービスを扱うことを考えたんです。

私自身には技術がないので、技術は持っているけど対外的な交渉をあまりしたことがないという開発者の方に何名かコンタクトを取って、その中に Sleipnir 開発者の柏木(現フェンリル社長)がいたんです。

Sleipnir で勝負をしたいと思った決め手はなんですか?

Sleipnir は当時から人気のブラウザでしたし、プロダクト自体に魅力を感じていたというのがまずありますが、それよりも柏木の開発姿勢に心を動かされたというのが大きいです。

はじめて話をした時に、プロダクトのすごさ云々ではなく、「どういう想いでこのブラウザをつくっているのか」という熱い想いや、「ユーザーと一緒につくっている」というユーザー目線の開発について語ってくれたんです。そういう話を聞いているうちに、ビジネスモデルというよりも感情的なところで「この人と一緒に仕事をしたら楽しいだろう」と感じました。

課題と失敗をひとつずつクリアに

そこから会社の立ち上げまでは順調でしたか?

ご存知の方も多いとは思いますが、フェンリルの立ち上げ前に柏木の自宅が空き巣被害にあって、Sleipnir のソースコードが入ったパソコンも盗まれてしまったんです。
そういう状況なので Sleipnir 2の制作は難航していて、完成するまでは売り上げを出すのが大変でした。会社として存続していくためには毎月お金をつくらなければならないので、どうするべきか悩みましたね。

その状況をどのように切り抜けたのでしょうか

色々とやっていましたが、そのうちの一つが Sleipnir 2の制作過程を発信するブログに貼る広告収入でした。「こういう機能を実装します」「こんなデザインになります」などの情報を小出しにして、ユーザーの方がコンスタントにページを見に来てくれるようにしたんです。

Sleipnir のユーザーにはデザイナーやエンジニア、IT リテラシーの高い人たちが多かったので、そういう人に向けた広告を掲載することで運営資金をまかないました。 それでもまだ厳しかったので、自分たちの給料の中から生活に必要な分だけをもらって、あとは会社に残すようにしていました。

Sleipnir 2をリリースした後の変化について

リリースされてからはスタッフの採用に力を入れはじめたのですが、それがなかなか大変でした。
私たちの理念を伝えれば「フェンリルで働きたい」と言ってくれるはずだと思っていたのですが、まだ新しい会社にリスクを冒して転職してくれる人はほとんどいませんでした。そんなに甘いものではないと思い知りましたね。

優秀な人材の確保に苦戦していたのですが、応募を待つのではなく、個人でソフトウェア開発をしている作者に直接「一緒にやりませんか」と声をかけたんです。当時はエンジニアとして生活している人は少なくて、仕事をしながら趣味や副業として活動している人がほとんどでした。ですから「仕事でプログラミングができるんですか?」という感じで興味を持ってくれました。

そういう人に入社してもらって、フェンリルの技術を底上げしていくことができたという感じですね。

フェンリルの転換期についてお聞きしたいのですが

共同開発部門の立ち上げが大きな転機になったのは間違いないですね。

フェンリルで扱うプロダクトが Sleipnir しかなかった頃は、検索エンジンからの広告収入が主でした。安定はしていましたが、ビジネスモデルに乗っているだけではなくて、直接売り上げを立てられるビジネスを考える必要がありました。

ちょうどその頃に iPhone が発売されることになって、iPhone のアプリ開発であれば「デザインと技術」というフェンリルの強みが活かせるということで、共同開発部門を立ち上げることになりました。

創業当時から“デザイン”を大切にされていますね

ソフトウェアの UI/UX デザインは今でこそ当たり前になっていますが、当時はそこまで意識している開発会社はまだ少なかったと思います。

まだ Windows のソフトウェア開発しかしていなかった頃の出来事でよく覚えているのは、「いいものをつくるためにはいいデザインに触れなければいけない」という柏木の考えから、iMac を開発マシンとして導入していたことですね。
デザイナーだけではなくエンジニアもデザインを意識するというのは、この頃からスタッフ全員に浸透していたと思います。

フェンリルではフレックスタイム制を導入されていませんよね

フレックスタイム制にも利点はあるとは思いますが、フェンリルではスタッフ全員が同じ時間に社内で仕事をすることが大切だと捉えています。エンジニアだけではなくデザイナーも在籍していて、1つのプロジェクトにチームで取り組むことができるのがフェンリルの強みでもありますし、スタッフが同じ時間に仕事をすることはとても意味のあることです。

また、フレックスタイム制だと同じチームの人が仕事をしていると帰りにくい雰囲気があるかもしれないと私個人は感じていて、就業時間や大型連休を定めることによって、スタッフが休みを取りやすい環境になればという想いもあります。

自分が道しるべとなれるように

スタッフとの向き合い方についてお聞きしたいのですが

会社の規模が大きくなるにつれて、スタッフ一人一人と向き合うことが難しくなっているというジレンマを感じていました。スタッフが数名だった頃と比べると当然そういう状況になってしまうとは思うのですが、このままではスタッフとの間に溝ができてしまうと考え、毎週月曜日に朝礼を実施することにしました。

朝礼をはじめた当初はちょうど業績が停滞していた頃だったので、経営数字を示してスタッフを鼓舞していました。ですが、スタッフは浮かない表情で静かに聞いているという状態で、朝礼をはじめた目的とはかけ離れたものだったんです。

大変な状況はスタッフもよく分かっているんですよね。ただ「業績が悪いからがんばれ」と叱咤するのではなく、どのような気持ちで仕事に取り組んでいくかや、フェンリルのビジョンなど、日々の業務においてヒントになるようなことを伝えるのが私の役目だと気が付きました。

それからはスタッフも関心を持って私の話を聞いてくれるようになったと感じていますし、フェンリルが進みたい道を示すことによって、そのためにできることをそれぞれが考え、行動する後押しになればと思い、今も続けています。

これからフェンリルが目指していくこと

私自身もそうですが、「もっとすごいことができる」「もっとお客様に喜んでもらえる」ということをスタッフ一人一人が考えてチャレンジしてほしいです。

たとえば友達の誕生日をお祝いする時に、プレゼントを渡したら相手は喜んでくれますよね。でもそれだけではなくて、素敵なレストランを予約したり、メッセージの入ったケーキを出したりするともっと喜んでもらえると思うんです。
さらに言うと、相手が好きな食べ物や欲しい物をリサーチしておけば、よりいっそうお互いの距離は縮まって良い関係を築いていけます。そうしたことを仕事でも意識すれば、フェンリルはもっと成長していけるはずです。

フェンリルのスタッフはもっと高みを目指せる人ばかりだと確信しているので、スタッフの成長を最大限にバックアップし、チャレンジできる環境を整えていくことが私の仕事だと思っています。

CEO / 牧野 兼史 Kazushi Makino