Fenrir INSIGHT

成長のために前進を続ける
──理念を体現するコロナ禍の会社経営

2020.12.1

自社プロダクト“Sleipnir”をはじめ、『共同開発』として取り組むアプリ/ウェブ開発において、多くのハピネスを生み出してきたフェンリル。
たしかなデザインと技術、プロフェッショナルな姿勢で信頼を積み重ね、グループ全体の従業員は506名(2020年10月現在)にまで成長している。

創業から15年という節目の年となった2020年。さらなる飛躍が期待されるなかで、新型コロナウイルスは会社経営にどのような影響を与えたのかー。

創業初期からフェンリルの経営を多方面で支えてきたCFOの淡路は、社員の安全を第一に、コロナ禍における会社経営のあり方を模索している。

状況に左右されないプロフェッショナルな環境の整備、社員を守る制度の構築など、経営側の取り組みを通し、フェンリルが見据える未来のビジョン、新しい働き方に迫っていく。

時代の厳しさが成長の糧に

ご自身のキャリアについてお聞きしたいのですが

大学卒業後に大手ゼネコン会社に就職したのですが、自分が考えていたような働き方ができないことに違和感を覚え、3ヶ月で退職しているんです。第二新卒という形で、当時ベンチャーとして成長途中だった不動産会社に入社したのが、本格的なキャリアのスタートになります。

入社後すぐは不動産営業としてマンション販売などを担当していましたが、半年ほど経った頃にプロジェクトを任せてもらえるようになって、並行してリクルーターのような役割も担うようになりました。

営業職とリクルーターを兼務されていたんですね

当初はそうでした。しばらくするとバブルの時期に突入して、不動産は出せば売れるという売り手市場となり、「どんな土地を買うか」「どんな風に売り出していくか」という上流の過程が重要になってきたこともあって、企画開発の部門に異動となりました。

その間もリクルーターとしての業務を続けてはいたのですが、企画開発の仕事が軌道に乗りはじめたころに、「長く採用に携わっている」という理由で人事へ異動を命じられました。

企画職から人事への異動には戸惑いはなかったのでしょうか

元々は理系出身でしたし、企画開発の仕事にやりがいを感じはじめていた頃だったので、異動になった直後は正直、戸惑いはありました。ですが、「現場で活躍していた社員だからこそ良い人材を獲得できる」という会社の考えには共感できたので、前向きに捉えることができました。

やみくもな採用活動ではなく「有能な人材を採用して会社を大きくしていく」という空気感があり、営業活動にも似た部分があったので、自分が考えていたよりは違和感なく業務に取り組めたのだと思います。

人事担当として活躍されたなかで、印象に残っている出来事はありますか?

バブル時期には数百人単位の採用を行っていたのですが、バブル崩壊後、採用した社員をグループ会社に出向させなければならない事態に直面したことです。

時世が原因とはいえ、自分たちが採用した社員をそのような境遇に置かなければならない状況に、人事の仕事の重みや、会社経営の厳しさを痛感しました。

人事に携わったものとして責任を感じずにはいれず、会社には退職の意向を伝えたのですが、当時の上司に「それは無責任だ」と一蹴されました。

今もまだ会社に残っている社員のため、出向になった社員が戻れる場所をもう一度築くことで責任を果たすべきだ、という上司の言葉に後押しされて、自分にできることを精一杯やり切る決意をしました。

その後は引き続き人事の業務に従事されたのでしょうか

そうですね。本社では、人事だけではなく総務などを、西日本ではマーケティング部門などと、管理部門の業務はほとんど経験させていただきました。

入社から20年、会社として持ち直すことができたというタイミングで退職したのですが、ニュースになるような様々な出来事を現場で体験して、経済がどのように回っているのかなど、裏側の部分も知ることができた20年間でした。

退職後のキャリアについて伺いたいのですが

これまでに経験させていただいたことを活かして新しいことにチャレンジしたいという想いがあって、家具をデザインして中国の自社工場で製造しているベンチャー企業に転職しました。

入社当時はこれから会社を大きくしていくという時期で、上場を目指していました。営業から管理の仕事までをひととおり経験している私を必要としていただいたのですが、上場という目標に向かって経営側として参画できたことは大変やりがいがありました。

経理、財務の業務を本格的にやりはじめたのもこの時期で、会社の経営のなかでも重要な部分でもあるのですごく勉強をしたことが印象に残っています。

経営の先頭に立つなかでどのような経験をされたのでしょうか

数年後には上場の手続きもはじめるなど順調に成長していたのですが、リーマンショックの影響や、自社工場との連携に課題もあったことから徐々に経営が厳しくなり、最終的に民事再生の手続きをとることになってしまいました。

時代の波に飲まれるという点では、バブル崩壊後の体験とはまた異なる会社経営の難しさに直面しましたね。 その後、役員は社長を除き全員が退職という形になりましたが、私はアルバイトとして社長とともに残り、民事再生のための手続きに追われました。

状況が状況なので苦しい面もありましたが、スポンサーや裁判所とのやりとりなど、多岐にわたる業務に携わるなかで得た物も多くあります。このことも含め、これまで経験した様々なことが私自身の楚となりました。

理念に共感できる場所で

フェンリルとはどのような出会いがあったのでしょうか

前職での民事再生の手続きにゴールが見えてきた段階で、そろそろ次の場所を探さなければと考えていたときに、前々職の同期から「おもしろい会社があるよ」と紹介してもらったことがきっかけです。

その当時フェンリルはまだ設立から4年ほどだったのですが、社長も若くて勢いのある会社だから、話だけでも聞きにいこうということになりました。

IT業界への転職に不安はありませんでしたか?

何をしている会社かというよりも、理念や働いている人の想いを尊重したいと思っていたので、とくに不安はありませんでしたね。

とくに管理部門の仕事をするにあたって業種はそこまで影響しないと思っていて、社員の活躍、お金を循環させること、判断を誤らないことなど、どの会社でも大切にすることは同じです。

様々な選択肢のなかでフェンリルへの入社を決めた理由は何でしょうか

フェンリルは若い社長が経営しているので、役員なども同世代の方が多いのだろうと想像していたんですが、面接官だった役員2名は私よりも年上だったので少し驚きました。

ですが話を聞いていると、若い経営者ながら独りよがりになることはなく、色々と経験した人に耳を傾けながら、誠実な経営をしているということが分かったんです。

しっかりと経営のことを考えている一方で新しいチャレンジにも貪欲だという点と、設立当初に制定したというクレドも印象的でした。

そのクレドの中に「私は、邪悪なことはしません」という一節があるんですが、誠実さのなかにもユニークさも持ち合わせている会社だと感じたことも、入社を決めた大きな理由ですね。

入社直後のフェンリルの印象はいかがでしたか

私が入社した当時は自社開発のSleipnirがメインの事業で、売り上げも順調に伸びていたのですが、GoogleやMozillaといった海外企業のブラウザが台頭しはじめるなかで、新たな事業にも力を入れなければならないという、変革の時期でもありました。

日本国内でのiPhone発売の年、他社に先駆けてアプリ開発部門を立ち上げていましたが、当時はまだ数名で細々と開発をしている状況だったので、現在のようにアプリ/ウェブ開発でたくさんのハピネスを生み出せるということは想像できていませんでした。

当時、まだ新規事業だったアプリ開発に投資することに対してはどうお考えでしたか?

私個人としては、管理部門としてのやや保守的な考えもあったので、慎重にすべきという意見でした。自社開発事業はそれなりに利益を確保できている状況だったので、アプリ開発への投資や人材の確保はある程度に留めて、ゆるやかに成長させていくことを提案したんです。

しかし社長は「やるのであればスピード感をもって」というジャッジをして、本格的にアプリ開発の事業に参入することになりました。

そのときの判断を振り返ってどうように感じていますか?

アプリ開発事業に参入したその年、後にも先にも一度しかない営業赤字を経験したのですが、あの時に決断をしたことが現在のフェンリルをつくりあげたことは間違いありません。もしあの時、目先の利益に保守的になってスピードが遅れていたら、今のフェンリルはなかったとさえ思います。

経営者に求められることは、節目で決断をすることだと思っていますが、当時20代だった社長が迷うことなくアプリ開発への投資を決断をしたことは未だに思い出しますし、インパクトのある出来事でしたね。

社員の安全を守るための決断

コロナ禍においてリモートワークがデフォルトとなりつつありますが、フェンリルではどのように運用されていたのでしょうか

フェンリルは創業以来、全員が同じ空間、時間に働くということを大切にしていたので、リモートワークをはじめフレックスタイムなども導入してきませんでした。他の企業がしているからフェンリルもするのではなく、「フェンリルが何を大切にしているのか」ということに重きを置いてきたからです。

ですが昨今は災害も多く、社員が危険にさらされる可能性もあるということで、災害時のリモートワークや時差勤務の制度を準備して、昨年(2019年)の11月に制定していました。

本格的なリモートワークの制度はいつごろから導入を?

制度を準備してしばらく経った頃に海外で新型コロナウイルスが流行しはじめたので動向を注視していましたが、日本国内でも感染拡大が懸念されはじめた為に2月末から、選択制のリモートを導入しました。

さらに3月末には、日本も非常事態宣言を検討段階となって、いよいよインシデントレベルを最高にしないといけないということを経営側で話し合い、フルリモートに移行したという流れです。

全員で働くということを大切にしてきたなかで、リモートへの移行に抵抗はありませんでしたか?

その想いは今も変わっていませんが、社員が健康に働ける環境を整えるというのが、会社としての大前提です。

創業当時から大切にしてきたことを覆す選択でしたが、社員の安全のためとなると話は別です。何よりも、社長自身が誰よりも熱を持って「一刻も早くフルリモートに移行すべき」という考えを経営陣に訴えていました。

アプリ開発への参入を決断したときと同様、大切な場面での選択を迷わない姿勢をあらためて感じました。

フェンリルは従業員への約束として、「社員がもっとも大切な資源」ということをクレドのなかで掲げていますが、そのことを経営側がおざなりにすることなくしっかりと体現できたことは、社員にも伝わったのではないかと感じています。

フルリモート開始に際して、会社としてどのような対応をされたのでしょうか

まず、社員が安心してリモートができる体制を整えるための一時金5万円を支給しました。とにかくスピード感のある対応をすべきだと考えていたので、フルリモート開始の告知から2日後には全社員に振り込みを完了して、各自が早急に環境を整えられるようにしました。

社員一人ひとりのがんばりで得た収益を有効に使うという意味でも、金銭面でのサポートは当然という認識もありましたね。

継続的なサポートもされていますか?

自宅のWi-Fi環境を使っての業務になるので、通信費として一人3000円を毎月支給し、自宅に環境が整っていない社員には、ポータブルのWi-Fiを支給しています。

その他、オフィスで使用していたモニターなどの機器を自宅へ郵送し、これまでと変わらない環境で働いてもらえるように配慮しています。これらの対応に関しては、バックオフィスに従事する社員が尽力してくれたことで、リモート準備のために全員が出社しなければならないというリスクを回避できました。

社員からの反応はいかがでしたか?

やはりまず、出社時の感染リスクを回避できることや、一時金などのサポートについて、「安心した」という意見が多くあがりました。フルリモート開始後、社員にアンケートを実施しましたが、ほぼ全員が「会社の対応に満足している」と回答してくれていたので、経営側としても安心しました。

会社としても、社員の健康を守れるということは大きなメリットです。コロナの影響がなかったとしても、満員電車で通勤することはストレスに繋がりますから、その部分をクリアにできたことも良かったと思っています。

根本を大切にするからこそ生まれる変化

リモートの実施は、経営面でもメリットがあるのでしょうか

フェンリルはここ数年で従業員数も順調に増えていて、かなりの頻度でオフィスの増床や席数の確保を繰り返していました。フルリモート実施直前にも新卒社員のために増席をしましたが、その時点で満員になるフロアもあったほどです。

ですが、リモートワークでこの問題も解消されてオフィス戦略も立てやすくなったことは、経営側としてもメリットだと捉えています。

業界全体を見て、この状況の変化はどう作用するとお考えですか?

フェンリルだけではなく、日本中が「リモート環境でも仕事ができる」ということに気がついて、多様な働き方に寛容な世の中になったと感じています。良くも悪くも、コロナを通してそういう考えが浸透したというのは、日本企業にとってプラスの面は大きいのではないでしょうか。

ただ、直接会ってコミュニケーションできないということは、多少なりとも弊害が生まれる可能性はあると考えています。それはフェンリルに限ったことではなく、多くの企業で課題となる部分だと思います。

フェンリルではリモートワークで課題となっていることはありますか?

フェンリルのリモートワークは、大きな問題なく稼働できていると感じています。それは、これまで社員同士が切磋琢磨し合いながら業務に取り組み、全員でマインドを育て共有してきてくれたことが、リモート環境でも引き続き活かされていることが大きいと思います。

一方で、入社直後からリモート環境となった新卒社員や、コロナ禍での中途入社となった社員に関しては、そうしたフェンリルのマインドや空気感を直接感じとることができないまま、リモートでの業務にあたってもらっていることに課題を感じています。

そこを「仕方ないと」諦めるのではなく、社内のコミュニケーションツールを刷新したり、隔週で実施していた朝礼をオンライン配信して会社の動きを逐一感じてもらうようにするなど、新しいコミュニケーションの形を模索している状態です。

アフターコロナの働き方についてはどのようにお考えですか?

2021年3月末までは『リモート前提』ということで、基本的には全社員リモート勤務で、状況に応じて出社もできるという状態にあります。

コロナが収束に向かったとしても、こうした多様な働き方は継続していきたいと考えていて、「フルリモートの選択」「週何度かの出勤」「全日の出勤」という風に、それぞれが働き方を選べる制度を検討しています。

たとえば実家が遠方にある社員もオフィスに出向くことなくフルリモートで勤務することができますし、採用にあたっても勤務地を定めない働き方を提示できれば、優秀な人材を仲間に迎えられるという可能性も広がります。

働き方が変わると、会社のルールや制度も変化していくのでしょうか

もちろんそうですね。現在はまだあらゆることが臨時的な対応になっていますが、リモートが長期化するなかで、就業規則や給与面の見直しには課題感を持っています。

また、リモート環境になって以降、ディレクターやプロジェクトマネージャー、リーダーなど、マネジメント側の負荷が大きくなっているという懸念もあるなかで、人事制度の改訂も急務と捉えています。

マネジメントに関する課題は、具体的にどのようなことが挙げられますか?

フルリモートで勤務するということは、極端な話ですがフリーランスで働くことに近い部分もありますよね。リモート環境下でこれまでと同じマネジメントや評価ができるかどうかなど、議論が必要なことは多くあります。

近くにいれば、努力していることを知ることができますし、同僚や後輩のサポートをしている姿を見ることができますが、リモート環境では成果を出すことが評価の基準になってしまうこともありえます。

成果が出るまでの過程部分を細かく知ることが難しい状況下で、マネジメント側がどのようにメンバーを評価するのかという点も、議論しなければなりません。

今後のオフィスのあり方についてはどうお考えでしょうか

リモートワークがデフォルトになったとしても、直接のコミュニケーションが大切という点はこれからも変わらないので、オフィスをなくすということは考えていません。

そのなかで、固定の席を設けないフリーアドレスや、コミュニケーションスペースの増設など、これから求められる環境の整備について議論しています。

今はまだ大勢で集まるということは叶いませんが、安全をはかりながら徐々に接点を持てる機会もつくっていきたいと考えています。

コロナ禍において社員に意識してほしいことはありますか?

会社として、社員のしあわせや成長のために最大限のサポートはしていきますが、一人ひとりがプロフェッショナルとして自分で判断をして進んでいくということも、この機会にもう一度考えてもらえると、フェンリルがさらに成長していくきっかけになると思います。

実際に、人数を調整しながら出社をする取り組みをしている部門もあり、社員同士で新しいコミュニケーションの形を模索してくれている姿を頼もしく感じています。

もともとフェンリルは、一人ひとりの選択や判断を尊重する風潮があるので、働き方についてもそれぞれが納得できる選択をしてほしいと思っています。

今後目指していくことを最後にお聞かせください

会社としてより成長していくための人材を集めること、社員が安全に働くことができ、プロフェッショナルな力を発揮できる環境、組織をつくっていくことは、ずっと考えています。 そのためにも、私自身が伝えられるスキルやフェンリルが大切にしていることなどを、若い世代に引き継ぐことに尽力したいです。

フェンリルはまだ成長の途中で、設立15年という節目の年にこうした激動の中にいるのですが、個々の力、チームの力によってフェンリルが支えられていることを、あらためて実感しています。

社員一人ひとりを守るという、コロナ禍以前から大切にしてきたことは今後も変わることはありません。どのような状況においてもフェンリルらしい姿勢を貫くことで、社員はもちろん、社会にハピネスを生み出す企業でありたいです。

CFO / 淡路 章夫 Fumio Awaji